不思議なコーラ

trespass/Merry Ghostsでドラムを叩いているカノウのブログ

壺中に天あり獣あり/金子薫

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 前情報から、前作『双子は驢馬に跨がって』のテーマと同様、「物語」の誕生以前を描き「物語」(小説、創作、文学あるいは人生等々置き換えられますね)とは何かを問うているにちがいないと楽しみにしていました。20代という若い作者が、今この時代に「物語」に正面切って取り組むだなんて興味深い、と思いを巡らせ読みましたが、おや、あまりにきれいすぎる…。前作『双子』の終盤あたりで描かれていた、壁の落書き攻防戦のような混沌としたものを私は勝手に求めていたのかもしれません(アレは面白かった)。 

 

無限の迷宮を彷徨い続ける青年・光。どんなに歩いても、螺旋階段が上下に伸び、廊下が一直線に続くばかりだ。

ある時、迷宮の中にホテルが建っているのを発見した光は、その支配人となり、客を呼び込むポスターを貼るため、再び迷宮へと足を踏み入れる。

迷宮の中の玩具屋で働く女性・言海は、ポスターを見て、ブリキの動物たちを連れてホテルを目指す―(帯・作品紹介より)

 

 (以下作品の内容に触れます、気をつけて)

 この小説はとても小説らしい。登場人物の過去や作品の舞台である迷宮について全く説明がないままスタートします。

 

言葉によって造られる迷宮のなか、光は当て所なく歩き続けていた。白紙に黒い字を綴る如く、彼は淡い黄色の絨毯を靴底で汚し、言葉に言葉を重ねるようにして、言葉を使う言葉となって先へ先へ進んでいく。(本文冒頭部)

 

 リアリティをもたせるための描写はないけれども、これは小説です、フィクションです、虚構ですという前置きは声高だ。また、迷宮の中に点在する酒場で出会う人々、光が雇い入れたホテルの従業員たち、玩具屋の言海、誰も光に対して何の影響ももたらさないのも、そう。あまりにも光に従順でまるで作り物のようだ。(だって、おそらく若い男女であろう光と言海が同じ部屋で暮らして何も起こらないんですよ?)

 

 ああそうか、この迷宮は光自身の心象風景か。自分のよく知っているもの以外、異質なものが入り込むのを拒否した安全で退屈な世界か。なるほど、だから最後光は自分で作った地図の外へ出ようと熱望するんだな。そりゃ息が詰まりますもんね、いつまでも同じ場所に居続けるのは。地図の外に出た時、きっともっと複雑な迷宮が無限に続いているだろうけど、大丈夫。それはこれまでとは違って楽しかったり恐怖したり泣き喚いたり、まあとにかく心が動かされることと思うよ。

壺中に天あり獣あり

壺中に天あり獣あり

 
双子は驢馬に跨がって

双子は驢馬に跨がって

 

 

今週末土曜はMerry Ghostsライブです。週末の夜遊び、是非ご一緒に!

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3/9(土)神戸HELLUVA LOUNGE

COSMICOS “Dream Baby Dream” レコ発!

 

 

・COSMICOS

・FASHION KEYS

・The Young Pennsylvanians

・Merry Ghosts

 

OPEN/18:30 START/19:00

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