不思議なコーラ

trespass/Merry Ghostsでドラムを叩いているカノウのブログ

「誤読や中途半端な読解力によって、新たなものが生まれる…って素敵なことね!」

敬愛する作家/ミュージシャンの発言で、私が好きな言葉。「誤読や中途半端な読解力によって、新たなものが生まれる…って素敵なことね!」

 

最近、小川洋子『約束された移動』を読み、実感した出来事があったので、良かったら以下読んでみてください。長いけど。

約束された移動

約束された移動

  • 作者:小川洋子
  • 発売日: 2019/11/12
  • メディア: 単行本
 
冒頭の表題作、年に一度ほどスイートルームに滞在するハリウッド俳優Bと客室清掃係の二人が顔を合わせることなく本を介してのみ交流するというもの。まさに映画のよう、素敵だなあ、Bが備え付けの本棚から持ち去る本も私の好きな小説が多くて嬉しくなる。この俳優Bって誰だろう、もちろん架空の人物だろうけど、ウットリ…の時点で留めておけば。この作品は老いや破滅という中に秘められた美、と消化されていた筈だ。
 
けれど私は、たまたま本書に関する作者のインタビューを見つけてしまった。Bのモデルが誰なのかという答え合わせをする気は毛頭なかったとは言わないけれども、何の気なしに読んでしまった。

え?Bってブラッド・ピットすか?ええっ?
もちろん作者ご自身Bは自由に思い描いてください、って断っておられるけれども。
いやそりゃ確かにブラピはめっちゃ本読んでそうだけど、プライベートも紳士的なイメージあるけど、お顔も彫刻品のように格好良い(と皆が言うのはわかる)けど。私はドラッグやゴシップや老いなんかで堕ちてゆくBをとりわけ想像してたもんで…不意打ち過ぎて、ああ驚いた。老いの方に注目しすぎたわ…そうか少年の頃か…

そのうえ私には、ブラピと言えば最近の年齢を重ねた方が印象深くてですね。ちなみに私の抱くブラピ像は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でエドウィン503の頃と変わらぬ容姿を見せつけ(鑑賞後ウィキペディアで年齢を調べた人私だけじゃないはずよ?)、『アド・アストラ』では宇宙の果てまで一人やってきて「孤独はつらい…」とのたもうた。いい歳こいてわかったことがそれかよ!中学生でもわかるわ!なキャラクターをシリアスな表情で完璧に演じ切り、腹がよじれるほど笑わせてくれる、老いてなお絶好調、破滅型とは無縁の役者なんすよね…そうか少年の頃か…
 
ブラピも俳優Bも大幅にずれておったなあ…
私は、老いて破滅したBという、自分が気に入った所だけことさら注目する偏った読み方してたんだなあ…早とちりで思い込み激しいのよくやっちまうからなあ…
 
でもその偏った勘違いが読書の面白さだと思うんですよ。自分のズレに気づくことも含めて。だって、一つの作品の背後に異なる複数の「物語」が透けて見える気がするじゃないですか。見えた分だけ楽しさ倍増じゃないですか。
(それに、この短編には多くの小説が登場するので、別の「物語」を自由に透かし見たりかき混ぜたりするのが推奨されてるのかもしれないですしね!私の勘違いは正解かも!とまた自分の思い込みで楽しんでおります笑)
 
楽しんじゃったもんですから、どうも最近つまらないんですよね。ある出来事に対して同意見の数を募り批判するやり方が何だか多すぎる気がしてね。もちろん署名や投票など数の有用性はわかってますけど、それだけじゃちょっと面白くないよね。人数分だけズレがあるはず、そのグラデーションのような「物語」が見える方法をやっていきたいすね。
 
 
あ、「約束された移動」のことばかり書いてますが、「寄生」「巨人の接待」も面白かったので、是非!
 
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大阪で1本Merry Ghostsライブあります!
週のど真ん中、タイミング良ければ是非ご一緒に!

■7/15(水)@心斎橋HOKAGE
HOKAGE presents [STRANGE BEAUTIFUL]

TSUKAMARO
Merry Ghosts
DEEPGREEN

OPEN: 19:30 START: 20:00
Adv. 1500yen Door. 1500yen (+Drink fee)

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「最近の三作」
バスティーユの悪魔 (論創海外ミステリ)

バスティーユの悪魔 (論創海外ミステリ)

 

17世紀パリが舞台の歴史浪漫。バスティーユ監獄で出会った騎士と毒薬使いの運命、心清らかな青年と少女の恋愛譚…

華麗な女主人公ブランヴィリエ侯爵夫人はきっと、幕末明治の毒婦・高橋お伝のように鮮やかな手練手管で痺れさせてくれるもんだと期待していたら、残念!未完の小説でした…短かった。そして、キャラの変わり方が激しい小説でしたよ、登場人物が語った過去とその人物の登場シーンとが全然噛み合わねえゾ、と突っ込みながら読んでいましたが、よくよく考えたら、人間ってそんなに一貫性のあるもんじゃなかったわ、と思い直す。

 
刑事と元妻の考古学者カップルが吸血鬼伝説にまつわる美女連続失踪事件に巻き込まれるアクションもの。シリーズの四作目。
ヴェネツィアの街並みが細かく描写されていて良い。ふんぷんたる腐敗臭の「マスター」もタイトルにある通り、ヘルツォークノスフェラトゥを想起させる風貌でこれまた良い。とくれば、ノスフェラトゥ役がとても素晴らしかったクラウス・キンスキーがヴァンパイア役の『バンパイア・イン・ベニス』が観たくなる。そりゃあなるよね、もうギンギンになってるよね。でもちょっとすぐにはこの映画は手に入らなさそうなんです…悲しい…どなたか見せてくださいませんか…
 
ドラゴンの教科書:神話と伝説と物語

ドラゴンの教科書:神話と伝説と物語

 

借りてきたもの。吸血鬼の歴史、神話や創作物、特徴、各国の伝承が簡潔にまとめられている。近年のヤングアダルト小説やTVシリーズにまで言及されているのは助かるし嬉しいが…全体的に資料が少ない。また伝承か創作か読んだ限りではちと曖昧な点もあり(気になったものは確認すること)。

 

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