不思議なコーラ

trespass/Merry Ghostsでドラムを叩いているカノウのブログ

ケン・ラッセル『白蛇伝説』/奥泉光『死神の棋譜』

 きっと観るべきタイミングというものがあるのだろう。なんとなく知った気になっていたケン・ラッセル白蛇伝説』を観てこんなに胸が熱くなるとは…。

 それは直前にこの小説を読んでいたことが少なからず関係していると思うので、まずはコチラから。

死神の棋譜

死神の棋譜

 

  弓矢に結びつけられた詰将棋の図式を、対局控室でプロ棋士らが囲んでいる場に居合わせた元奨励会員のライター・北沢は、その、詰みがない「不詰めの図式」を一目見て蒼白になった天谷から、図式に纏わる因縁と将棋を信奉する宗教・棋道会について話を聞く。その後、天谷は音信不通となり、図式を持ち込んだ夏尾は失踪。北沢は夏尾の同郷/妹弟子である女流棋士玖村と共に夏尾を捜索、棋道会の謎を探ることになる…。

 現実がいきなり悪夢のような仮想空間に変化する、奥泉節は本作も健在。どこまで将棋の宇宙が拡がっていくのか…と思いきや、現実世界でのオチの付け方もキレイに伏線回収、とても読みやすく面白かった。

 しかし気になるのは、北沢をはじめ主な登場人物は将棋に挫折した者ばかりという点だ。本作には夢を諦めた人々の鬱々とした吐息が満ちている。そして物語は2011年5月、つまり東日本大震災の二ヶ月後が舞台であり、北沢は震災で「同時代の同胞が多く犠牲になったから」か、「不安とも興奮ともつかぬ神経の震え」を抱えており、「将棋なんかしている場合か」というような後ろめたい「気分」を感じながら日々過ごしている。

 あああ、わかるわ…。将棋に限らず“趣味”と言われてしまいがちな、いわゆる“非生産的”な事柄に重きを置いている人なら一度は抱いたことがあるはず。そしてまたこの「気分」は“不要不急”という言葉になって、2020年現在も続いているように思う。このままこの息苦しさが蔓延してしまうのだろうか、私の大好きな音楽や本や映画なんかがもっと追いやられてしまったらどうしよう…と、北沢の吐き出す重苦しい溜め息に絡めとられそうになりつつ(本書がミステリ仕立てで良かったですよ…)読了した夜に、そう、コレを観たわけです。

白蛇伝説 [DVD]

白蛇伝説 [DVD]

  • 発売日: 2006/05/26
  • メディア: DVD
 

ケン・ラッセル白蛇伝説』(1988年イギリス)

 若き姉妹二人が経営する田園地方の民宿の庭で、考古学者の青年アンガスは恐竜の頭骨のようなものを発見する。それからというもの彼らの身の回りで奇妙なことが起き始め、調べるうちにその村には人間を襲う「大蛇伝説」があることを知る。そして、その大蛇を討伐した伝説の騎士の末裔ジェームスを加えた四人は、「神殿の家」と呼ばれる屋敷に住む謎の美女シルヴィアが、白蛇ダイオニオンに仕える蛇女であることに気づき、戦いを挑む…

 『吸血鬼ドラキュラ』の作者であるブラム・ストーカーの『白蛇の巣』を原作としたB級ホラー・コメディ。まあ上に掲載したジャケを見てもお分かりですよね?輪廻転生、邪神、両性具有、生贄等々をキーワードに監督の妄想が大暴走な作品です。

f:id:kano-trespass:20201217234623j:plain

コレですわ(わあ…格好良い…)

 この映画の主役は誰が何といっても、シルヴィア役のアマンダ・ドノホーでしょう。ガウンの下は黒い下着にロングブーツ、どぎつい衣装に身を包んでセクシーな蛇女がはまり役です、もうそれにしか見えない。

 

f:id:kano-trespass:20201217234948j:plain

f:id:kano-trespass:20201217233653j:plain

爬虫類は暖かいの好きだしね…日サロで大事な紫外線を浴びます。

f:id:kano-trespass:20201217233303j:plain

f:id:kano-trespass:20201217233457j:plain

トルコの「蛇使いの曲」のレコードを大音量でかけられて…思わず籠から出ちゃった、踊っちゃった。

f:id:kano-trespass:20201217233815j:plain

でも二度目はないわ!とばかりに、耳栓で防御。えっ…耳栓…

 蛇ダンスくらいからアマンダの熱演に心打たれておりましたが、物語のクライマックス、ダイオニオンに姉妹のうちの一人、イブを生贄に捧げるシーンが素晴らしかった!どうみてもチープなセットと大蛇を背景に、全身真っ青に塗りたくった半裸姿で蛇女を全うしてます。

f:id:kano-trespass:20201217234358j:plain

 88年といえば、もう『バック・トゥ・ザ・フューチャー』やら『ターミネーター』とか公開されてますからね、ハリウッド映画と比べても仕方ないかもしれませんが、やはりショボいですよ、このセットじゃ。でもきっと、現場入りしたアマンダ姐さんは、充分よ、まかしときな!と言い放ち撮影に臨んだに違いないのだ…恰好良すぎる…頼もしすぎる…そして何だか楽しそう…そう思うともう鼻の奥がツンとしてきて…グスっ…ありがとうございます、元気が出てきました。そうそう、楽しいモノはまだまだたくさんあるからね、ヨッシャ!!!

twitter.com