不思議なコーラ

trespass/Merry Ghostsでドラムを叩いているカノウのブログ

原葵『くじら屋敷のたそがれ』/日影丈吉『女の家』

 今年も美味いケーキを食べました。ありがとうございました。

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くじら屋敷のたそがれ

くじら屋敷のたそがれ

  • 作者:原葵
  • 発売日: 2020/11/22
  • メディア: 単行本
 

 世界の果てに浮かぶ奇妙な島。島に行ってしまった夫から送られてきた1冊のノート。妻は〈水上二足歩行者〉になろうと決意する。〈くじら屋敷〉に棲む猫は、「百年前からおまえを待っていたんだぜ」と少女に囁き、少女は猫に食いちぎられたいと胸を焦がす。魂の救済を待つこの島に、本当のたそがれは訪れるのか?(国書刊行会 内容紹介より)

 どういった方なのだろうかと作者を調べるもダンセイニの訳者として活躍されていることしかわからなかったが、面白そうなので入手。そして勘は当たりとても面白かった。まあ国書刊行会ですからね!頼もしい!

 本書は「綺想の書」と冠されている通り、散文詩なのか小説なのか…全体を一つの物語ととらえても良し、章ごとに独立した掌編小説と読んでもOK。私は生真面目にページ数に沿って読んだけれども、どのページから読み始めても良いかもしれない。時間や登場する生き物たちの性別や種族の境界が融けてしまっているかのように自在に変化する作品世界なので、読む度に新しく発見があると思います。

 そしてまた、出てくる言葉が心地良いんですよ。むかしとかげ、たま子、水上二足歩行者、、、響きも素敵だし、文字を追う目にも気持ち良い。ついでに言えば使われている紙の材質の手触りも良い。菊判なのでちょいと重量感を感じつつ(本の重さが好きな読書家は多いと思う)、次第に軽くなっていく残ページの重みを左手に受けながら物語が終わってしまう切なさに悶えるのも良い(そう、551の豚まんが一口食べるごとに小さくなっていくあの幸福感と寂寥感がないまぜになっている時のように)(左手で感じる残ページの重みや厚さは私には結構重要でして…だから電子書籍ではあまり読まないのかもしれません…ページ数を数値で表示されてもピンとこない数字オンチなだけですが)。

 さておき、本書は紙の本ならではの魅力が詰め込まれている作品でした。是非!

女の家 (中公文庫)

女の家 (中公文庫)

  • 作者:日影 丈吉
  • 発売日: 2020/09/24
  • メディア: 文庫
 

 昭和36年に刊行の長篇小説。冬の夜、銀座の裏通りにある家でガス漏れ事故が起き、女主人の折竹雪枝が死亡する。担当の老刑事と3人の女中のうち初老の乃婦が交互に語り手となり、雪枝が社長の愛人であったこと、二人の間には11歳の息子がいること、息子の家庭教師である若い男(雪枝と不義の関係にある)が出入りしていたことなどが次第に明らかになる。雪枝のガス中毒死は、事故か自殺か、それとも他殺か…。

 ミステリ紹介のようになってしまったが、本書は謎解き推理小説ではない。もの悲しい真相に辿り着くまでに語られる(もしくは語られない)登場人物の背負っているものや、いびつな家族の情景や、戦後の跡が残る昭和の風景を、読むものである。それにしても乃婦が語る文章の凄みよ…決して読みにくい文章ではないのに、雪枝という女がつかめそうでつかめない、簡単にはわかった気にさせてくれない読後であった。

(しかし最大の謎は11歳の坊ちゃんだな、ラストシーンも含めよくわからない…これはもう少し考えなければならないな)

(他作品だけど短編「鳩」での鳩の群れ=若い看護婦の集団のように描かれていたのが印象深い日影女性描写のひとつです、わかる!と思ってしまった笑)

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