不思議なコーラ

trespass/Merry Ghostsでドラムを叩いているカノウのブログ

トム・ホランド『真紅の呪縛』『渇きの女王』/ポール・ウィルスン『ザ・キープ 上下』

 トム・ホランド『真紅の呪縛 ヴァンパイア奇譚』(ハヤカワ文庫NV)(1997年)

 このシリーズ、最高に面白かった…!てっきり、アメリカン・ヴァンパイア・ムービー『ナイトフライト』の監督が小説も書いていたのだと思い込んで手にしましたが、これはイギリスの作家、歴史学者トム・ホランドによるもの。過去の実在の人物を多数登場させ、少し(大幅に、かもしれませんが)史実を変えて描かれます。歴史伝奇ホラー小説とでも言えばいいんでしょうか。

 詩人バイロンの失われた回想録を求めて母親が行方不明になってしまったレベッカは、その回想録がルースヴェン卿の礼拝堂にあると知る。そこで彼女は若く美しいままのバイロンに会い、吸血鬼となって過ごしてきたバイロンの数百年にもわたる人生の物語に耳を傾けることとなる。
 親友と共にヨーロッパ大陸旅行に出たバイロンは、トルコ支配下ギリシャで、領主ヴァケル・パシャの奴隷少女ヘイデと恋に落ちる。ヘイデと手に手を取り合い逃亡したバイロンだが、パシャに捕えられ吸血鬼にされてしまう。パシャは吸血鬼たちの王たる強大な力をもつ存在であった…

 バイロンと一緒に19世紀初頭の東欧、ギリシャ、イタリア、イギリスを巡る異国情緒を味わうもよし、登場人物に『フランケンシュタイン』の作者メアリー・シェリーや『吸血鬼』を書いたバイロンの侍医ポリドリ(彼のキャラクターが素晴らしい…是非映像でも見てみたい)も出てくるので、各々の作品を背景に眺めながら本作を辿ってウフフとニヤつくのもよし、別にそんなの知らんでも、お貴族サマ的な美青年バイロンの耽美なシーンや割とグロテスクなスプラッター場面も盛り込まれとりますし、延々と自分語りを続けてきたバイロンの意図とは何ぞや?引き込まれるストーリーを堪能するもよし。

 このシリーズ映画化してくれないかなあ…せめてこの一冊だけでも良いんですけど…吸血鬼の告白という本書のスタイルは、アン・ライス夜明けのヴァンパイア』を彷彿とさせることだし、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』くらい豪華な感じで…お願いします!!

トム・ホランド『渇きの女王 ヴァンパイア奇譚』(ハヤカワ文庫NV)(1997年)

 はい、続きましてシリーズ続編。こちらも前作に負けないくらい面白い歴史伝奇ホラー小説です。バイロンとポリドリは引き続き登場しますが、独立した作品となっているのでこちらから読んでも全然問題なしです。ね、だから読んでみて。

 血液学を研究する医師エリオットは、吸血鬼伝説が今も残るインド国境で、英国軍の部隊と行動を共にし、常軌を逸した恐怖体験の後、帰国する。ロンドンで診療所を開いたエリオットは、親友の一人が血を抜かれた状態で死に、もう一人の友人が失踪したことを知る。その夫人から夫についての調査を依頼され、二人の友人が共にインド国境に関わる任務に就いていたことから、そこに原因があるのではないかとエリオットは推測、また劇場支配人であるブラム・ストーカーと知り合ったエリオットは、彼と協力しながらヴィクトリア朝ロンドンで跳梁する吸血鬼の正体に迫る…

 本作はヴィクトリア朝時代ってことで、『ドラキュラ』を書いたストーカーも登場するし、まるでシャーロック・ホームズのように推理していくエリオットがコナン・ドイルの作品を読んでいたり、虚実入り乱れております、楽しいです。ちょっとネタバレすぎるから言わないけど、この時代のロンドンといえば…のあの人も登場しますよ!
 前作ではアン・ライスへのオマージュかと思わせる形式で書かれていましたが、今回はさらに凝ってます。先も述べたけれどコナン・ドイルのホームズシリーズ、そしてストーカーの『ドラキュラ』を踏まえているのは体裁を見れば明らか、本作も手紙や手記、蝋管式蓄音機などを用いて構成されています。さらに吸血鬼と戦うエリオット自身が『ドラキュラ』と一緒、ストーリーをなぞっています。もひとつ言うなら登場人物の名前も『ドラキュラ』の登場人物とよく似ています。あ、でも単なるパロディじゃないですよ、先の読めないハラハラドキドキ展開で一気読み必至です。そうそう、血液学の専門家であるエリオットがヴァンパイアの血液を科学的に調べるのですが、そのあたりもうまく設定されてました。なるほどね…
 トム・ホランドの著作を検索したところ、2008年に発表された小説があとひとつあるようです。残念ながら邦訳されてない。読みたいなあ。『Deliver Us from Evil』、バイロン卿は出てこず続編ではなさそうなのですが、17世紀のイングランドを舞台に殺人事件を解決するため奔走する主人公の往く手に恐ろしい吸血鬼が現れる…という内容っぽいんですよ!多分。読みたいなあ読みたいなあ…早川書房サマ、お願いします!!

ザ・キープ〈上〉 (扶桑社ミステリー)

ザ・キープ〈上〉 (扶桑社ミステリー)

 

 F.ポール・ウィルスン『ザ・キープ』上下(扶桑社ミステリー)(1994年)

  独ソ開戦直前、ルーマニアの古城に駐屯を命じられたドイツ軍兵士たちに襲い掛かる正体不明の化け物。夜になると一人、また一人と人知を超えた手法で惨殺される奇怪な事件。その解決のため、ナチス親衛隊少佐率いる残虐さでつとに知られる特別部隊が送り込まれる。また十字架だらけの古城の謎を解くためユダヤ歴史学者父娘も連行され、不思議な能力で事件を察知した謎の赤毛の男も遠くポルトガルから単身乗り込んでくる…

 上巻は吸血鬼vsナチス、病により体の不自由なユダヤ人学者が、吸血鬼の力を使っておぞましい存在のヒトラーナチスを成敗してくれるわ!!と頑張るモダン・ホラーですがエイボンの書やら出てくるのでクトゥルフも追加しといて下さい。そして本作の吸血鬼らしき邪悪な存在はヴラド・ツェペシュ(ドラキュラのモデルになったと言われる串刺し公、15世紀ワラキア公国の公主ね)とお友達だったそうなので、えらい年くったオリジナリティ溢れる吸血鬼だぞと胸が高鳴る。ドキドキ…

  下巻で吸血鬼の正体が明かされるはず、と読み進めてビックリ、本作はホラーでなくヒロイック・ファンタジーへと変貌します。そしてアヤツは吸血鬼じゃなかった…。吸血鬼vs人間の構図を軽く飛び越えて「混沌」vs「光」の戦い、あれ…いつの間にかギリシャ神話になってる…ヴァンパイアどこ行った…

 いやーこの壮大さ、いっそあっぱれです。え、なんかイキナリすぎません?反則な気がするんすけど…てな文句も塵芥のごとし。スケールのデカさに何も言えません笑。呆気にとられますが、それも含め読後感はなかなか爽やかです、是非!

 ちなみに本作は「アドヴァーサリ・サイクル」シリーズの第1巻だそうです。そうかそうかデッカい物語の序章であったのか。しかもこのシリーズは、同作者の他の人気シリーズ「始末屋ジャック」と融合することになるのか。そりゃデッカいわ。映画化されているのにDVD日本語版がないのは残念!

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コレか…!!観てみたい…ソフト化お願いします!!

ザ・キープ〈下〉 (扶桑社ミステリー)

ザ・キープ〈下〉 (扶桑社ミステリー)